アンケートの話

雑渡は文字を追った。真剣そのものだった。先日タソガレドキ忍軍の働き方改革の一環として行われたアンケートである。「忍組頭の働きぶりはどうですか(百字まで)」という自由記述の設問があり、雑渡はここに自分の来し方行く末が記されるものだと思った。忍たちひとりひとりの矜持と生命が、自分の背に託されている。かれらの声を聞かなければ。一枚を読み終え、紙をはぐってまた一枚読む。右目もとをおさえ、雑渡は天井をあおいだ。涙が出そうだった。

「誰も字数制限を守ってない……」

側で狼隊のアンケートをまとめていた山本が苦笑する。

「思いが迸ってますね」
「迸りすぎだよ。紙の端ギリギリまで書いてる。五条弾だけだよ百字にまとめてあるの。私のこと嫌いなのかな」

次の紙をめくる。

「陣左なんてもう裏まで書いちゃってる」
「無記名なのに性格が出ますね」

押都も紙を覗き込んできた。

「おー……これはこれは」
「もはや恋文ですね」
「顔が赤くなってしまいそうです」
「雑面なんてつけておいてそんな……」
「アンケートにこんなこと書いたらダメッ!」

ワナワナと手を震わせ、雑渡はスクッと立ち上がった。この場から逃げ出したい気持ちも多分にある。押都と山本に言外にからかわれ、顔から火が出そうだった。

「書き直させてくる! これ殿も見るんだよ!」

かくして高坂の居室で、ふたりはアンケートをはさんで向かい合った。雑渡の威圧感にも負けず、高坂は背筋をしゃんと伸ばしている。

「なんで怒られてるかわかる?」
「百字までの制限を守らなかったことでしょうか。お言葉ですが組頭、あなたさまへの想いが百字でおさまるなどと」
「これは私への想いを書くんじゃなくて私の働きぶりのことを書くのっ! こんなのラブレターだよ!名前書いちゃってるし! 無記名って言っただろ!」
「働きぶりのことも含めて、総合的に」
「働きぶりなんて二行で終わってるじゃないか!」

頬に手を当て、雑渡は高坂の嫌う横座りをして嘆いた。

「陣内にも長烈にも見られたんだよ。私は恥ずかしい」
「組頭はどこに出しても恥ずかしくないお方です」
「おまえの恋文はどこに出しても恥ずかしいよ」

とにかくこれは殿も見るものだから、書き直して。ちゃんと百字まででね。憔悴しきったようすで高坂に告げ、雑渡は部屋を出る。高坂はその背中に声をかけた。

「あの……下書きに使いたいのでアンケートは返してほしいのですが」
「だめだめ没収だよこんなの。日没までに書き直して持って来なさい」

廊下に出ると、ちょうど西日がさしていた。アンケートの内容を思い出し、顔が熱くなる。

「三年後、からかうネタにはちょうどいいかもな」

そっと懐にしまう。

2025.11.13.