現実の夢
父の手が私の頭を撫でた。とうの昔に死んだはずの、父のおおきな手。朝日の中、まだ眠っていたくて身じろぎしたときだった。私の頭を、父は撫でてくれた。
「起きなさい、昆」
「父上」
思わず呼びかけた私の声は、幼子のように高い。子どもに戻っている。これは夢だ。まぎれもない夢だ。わかっているのに、不思議と現実感があった。ととさまがいる。目の前にいる。私は起き上がり、父に抱きついた。顔を上げると、窓を背にした父の顔は逆光でよく見えなかった。
「どうした」
あたたかな手が、背中をゆっくりと上下にさすってくれる。私は涙を止められなかった。父と話したい。ひとりの年長者として、忍として、もっとたくさんのことを教えてほしい。そう思ったときには、父は亡くなっていた。
「しょうのないやつ」
そう言って笑う。頬を撫でる手。
「怖い夢でも見たか」
「……はい」
頷くと、父は背を丸め、私に顔を近づけた。年齢を重ねながらも、どこか少年っぽさの残る両目が、私を見る。
「ととさまが聞いてやろう。怖い夢はね、人に話すとほんとうにならないんだよ」
「ととさま」
夢だと思いたかったことは、現実だった。ととさまは死に、私と陣内は残された。まるでそれがはじめから支度されたできごとだったかのように、あとのことは順番に進んでいった。私たちの気持ちを置き去りにして。
「ととさま」涙声でもう一度呼びかける。「いなくならないで」
父は少し驚いた顔をしたあと、ほほえんだ。こちらへ手を伸ばし、前髪を混ぜるようにして私の額を撫でる。
「ととさまもいつかはいなくなる。お天道さまから与えられたお役目を終えたとき、いなくなるんだ」
あなたは死ぬんだ。私たちを置いて。
「誰にでもお役目はある。昆にだって、陣内にだって、それぞれのお役目がある。それを終えて天にとられるときは悲しいだろうが、お天道さまが決められたことだ。誰のせいでもない。決して」
自分を責めてはいけないよ。
その声を聞きながら、私の意識は浮上した。ひとつぶ、右目から涙がこぼれる。暗闇の中、目の前で眠る陣内の裸の腕を触った。
残された私たちは、こうするしかなかった。